「坂本龍馬は着物にブーツを履いているんですよ。明治時代に西洋の文化が日本に入ってきた時、着物にブーツと履物、どちらを合わせようか? そうしたコーディネートの選択肢があったはずなんです」。そう話すのは、履物 関づかを主宰する履物職人の関塚真司さん。 「靴ではない日本の履物」をテーマにものづくりを行う履物 関づかと昨シーズンに引き続き実現したMame Kurogouchiとのコラボレーション。春夏にふさわしい軽やかな履き心地の履物が生まれた背景について関塚さんの京都のアトリエでお話を伺いました。
−素早い所作であっという間に一足完成しました。これが春夏コレクションのために作られた新作ですね。
実はこれが最初の一足目なんです。なので、感覚を掴むのに少し時間がかかりました。普段は、パーツさえそろえば、一足5分ほどで組み上げることができます。履物は鼻緒にシルクがつかわれていることも多く、この履物に関しては全体がレザーでできています。そうした繊細な素材を扱う際には、極力手数を少なくし、素早く組み上げることで、生地との摩擦を最小限に抑えるように心がけています。
−鼻緒やソールなどのパーツはどのようにつくられているのでしょうか。
パーツごとに異なる職人さんに完成のイメージを伝え、分業でそれぞれのパーツを作ってもらいます。それらのパーツが揃うと、このアトリエで最後の仕上げとなる組み上げの作業をします。実際には、組み上げるよりもパーツが出来上がるまでの職人さんとの試行錯誤の道のりの方が長いんですよ。
−鼻緒のカーブも印象的です。
二石(にこく)と呼ばれるデザインで、履物においてはクラシックな仕様です。鼻緒が途中でふたつにわかれていますが、機能としては、一本のものと同じ。ただ、デザイン性、意匠の違いはあります。履いた時に鼻緒が分かれ、広がることで足の甲のあたりにうまれるカーブは、Mame Kurogouchiの洋服のシルエットにもみられる曲線からインスピレーションを受けました。
−ソールもふかふかしていて、履き心地も良さそうです。
ミッドソールにはスニーカーの中底などに使用される素材を採用しています。春夏にサンダル感覚で気軽に履いていただけるように、古典的な履物の仕様にとらわれず必要に応じて現代的な解釈も入れています。
−前回の履物よりもソールの幅が広いですね。
前回は、ベロアの履物と同素材の足袋を履く前提だったので、ソールは細長く作っていました。履物を履いてみるとわかりますが、足袋を履いた足の小指がソールからはみ出ているなんてこともあるんです。でも、足袋は靴下とは異なり型があるので、それが履物にぴったりとフィットする仕組みになっています。今回は、裸足で履く想定なので、足全体がソールに乗る安定感が必要でした。そこで、ソールの形をいちから開発し、このためだけにオリジナルのものを制作しました。
−洋服に履物を合わせるというアイディアも斬新です。
たまたま履物が生まれた時代の服装が和装だっただけで、そこに洋服があれば履物の選択肢として、履物と靴が両方はいっていたはずなんです。そうやってフラットに考えた時に洋服に履物を合わせると言うことはとても自然なことだと感じています。昨シーズンは、履物に合わせる同素材の足袋もつくりましたが、どんな足袋を合わせるかまで包括して履物を作るほうが、履く人に対しても親切だと思いますし、履き心地も変わってきます。また、同素材で作ることで洋服との境目がなくなり、自然と足元に馴染むようなデザインになっています。今回も春夏らしい軽快さとサンダルのような履き易さを考えたときに、斬新なソールのデザインが浮かび上がりました。こうした新しい履物の提案を考える上で、日本の伝統に現代的な眼差しを向けて洋服作りに取り組むMame Kurogouchiは、最高のパートナーだと感じています。
Photography: Elena Tutatchikova / Words & Edit: Runa Anzai (kontakt)